佐藤亜紀作品の魅力のひとつに、考証の厳しさがある。もちろん、
「おはなしがすごく面白くて文句のつけようがない」
のだが、裏付けによってさらに深みができている。少なくとも英・仏・独・露の文献には当たっているのだろう。日本語さえ不自由な身としては。。。
ミリオタではないのだけれど『ミノタウロス』に書かれている兵器を妄想してみました。
※引用ページは文庫版に拠ります。
‐‐‐ウルリヒは廃墟になった学校から、どうも使い方が判らずに捨てていかれたらしい機銃(パラべルムだ、とウルリヒは言ったーー畜生、飛行機もどこかにある筈だぞ)と弾を一箱せしめ、ぼくは図書館で焼け残った本をかき集めた。 (201ページ)
こいつがあるだろ、と言ってウルリヒは馬車の座席を叩いた。これもだ、と言って機関銃に顎をしゃくった。赤軍の金で五百なんざ紙切れだ。こっちの方がよっぽどいい。嘘だと思うなら、お前、撃ってみろ。 (232ページ)
なかなか重量がありそうである、二人で建物の2階まで上げるのは大変だったのではないか。
ーー犬でも引っ張れそうな小ぶりの砲や、--
(236ページ)
37mm砲とは・・・ pic.twitter.com/WfsPBuNpTF
— 蛇乃目伍長 (@boffin_side) November 8, 2018
オーストリアハンガリー帝国で運用された歩兵砲。ちょっと短小すぎるんとちゃう?…砲兵が破壊困難な機関銃陣地を直射で壊せればそれでいい?そうなんや、それやったら強う言えんな…。部隊配備は1916年…あっ(察し)pic.twitter.com/TZPvgPARW4
— ホモと学ぶ軍事bot (@schschschweig) August 29, 2018
ウルリヒが赤軍から奪った飛行機、複葉複座、東部戦線だとだいぶ絞れるが、筆者はそもそもブリストルを想定して書いたそうである。
でも、現場がウクライナなので、ロシアかドイツが主力として装備していた機体なんじゃないかな、と考えてみたりも。
グラバクの指揮下で航空攻撃の際に使った手榴弾は、ドイツ軍から鹵獲したM42で問題ないと思われる。ロシア軍にも柄付き手榴弾はあったようだが、柄のはしのねじ込み式キャップを外して紐を引いて着火させるのはこちら。
ロシア内戦については、webで検索してもあまり日本語の資料があまり出てこない。
それより、思い出したのは中学生の頃に読んだ萩尾望都/レイ・ブラッドベリの『ウは宇宙船のウ』のなかにある「集会」だった。
ローティーンの魂アラ60まで。
湿って冷たいミハイロフカの霧を思い出した。足下さえ見えなくなるくらいに濃く立ちこめて、眠り込んだ黒い畑を覆い、微風にあてどなく流れて行く冷たい霧にまかれると、自分も霧の一部になって流れて行くような気がしたものだ。親父と兄も、サヴァも、シチェルパートフも、誰もがぼんやりと輪郭を失い、霧の中を霧になって流れて行く。覚えのある誰かが、すぐ脇に、目を閉じたまま、漂っている。確かに覚えている筈なのに、それが誰なのかどうしても思い出せない。たぶんもう、誰が誰であるのかなどどうでもいいことなのだろう。ほんの暫くは残っていた記憶も、感情も、すぐに消え去ってしまうだろう。 (282ページ)