昨年末の投稿で「この項続く」なんて書いておいてそのまま放置だったのだけれども、いまだにアマゾンにもレヴューが載っていないのでやっぱりまとめておこうと思う。
この本のポイントは、外来種の移入を糾弾するものではないし、移入を許容する立場を主張するものでもない。いずれかの立場の主張をするものではないので、面白くない人には面白くないのかもしれない。
この本で記されているのは、グアム、ハワイ、SFなどで生物相の現状と変化、あるいはその変化の原因を調査する人々の試みを追いかけていく。そこでは、研究者自身の主張あるいは意見が表明されない。そこがぼくのような素人には物足りないところではあるのだが、扇情的な主張をしないのがこの作者の良心だと思う。
自然科学においては、結論を想定して調査をおこなうと、調査自体に結論に向けたバイアスがかかってしまう。したがって、研究者たちは結論を想定しない。ありえたことをそのまま記録する。そして生き物は、たどり着いた場所で生き延びるために最大の努力をし、できうる限り環境に適応しようとする。だが、そこできわめて限定的な環境にも適応した種がうまれ、その限定的な環境が失われようとするとき、その種もともに消えるかもしれない。だが、そこに正しいとか正しくない、あるいは「本来の自然」というものはあるのだろうか。
「生物」好きの人ならわかるだろうと思う。自然の中であろうと、虫籠の中であろうと、その場での生き物のふるまいを観察することによろこびを感じる。
海流の中、小舟で漕ぎ出し未知の島にたどり着こうとする人間と、糸を伸ばし風にのって空を旅するクモと、「移動への欲求」に違いがあるのだろうか。