過去の医療事故から外科医を引退し、祖父から譲り受けた島のサマーハウスにこもって12年となる主人公は66歳。そこに37年前に捨てた恋人が訪れ、かつての約束を果たせと迫る。
刑事ヴァランダーシリーズの著者、ヘニング・マンケルの新刊なのでミステリのノン・シリーズかと思ったのだがそうではなくて恋愛小説だった。
主人公の内省的な描写が中心だった序盤を経て、中盤から一気に展開する構成はさすがミステリ畑出身だと感じいった。
雪に閉ざされた湖を訪れてアクシデントに見舞われる部分は、村上春樹の影響があるのでは?主人公の不安や恐れを自然や風土に仮託してあらわし、そこに飲み込まれかけるものの生還する、というのは村上春樹の得意な表現じゃなかったっけ、と思ったけれども、なにせ村上作品を読まなくなって20数年経つので勘違いかもしれない。
北欧人の心性なのか、ヘニング・マンケル独特の表現なのかはわからないが、感情表現が濃厚で、人間関係が深く濃い。そのぶん怒りは激しく喜びは大きい。作中の人物が唐突に怒り出すところは、ちょっと理解しがたい。またその怒りかたが尋常ではない。それがスウェーデン人と日本人の違いなのか、それとも人やものごとについて怒ってもなにも変わらないので怒ることをほとんどやめてしまった、あきらめてしまったじぶんの問題なのかはよくわからない。
決定的に見える衝突があっても、関係を再構築する糸口があるのはヨーロッパ的なんだろうか。
この辺りはヴァランダーシリーズの親子関係でも感じたところである。
過去からの突然の訪問はない
残された孤島などはない 住宅ローンがある
いかなる失策をしても退職はできない 謝罪して勤める
還暦近くなって「ぼく」なんて言ってるほうがどうかと思うよね。